終電前の日高屋

浮ついたハスキーが雑衆の合間を劈いた。中村は「お前は?」と訊かれてようやく返した。幾度も潜り抜けてきた終電前の戦場で橋本は両手に抱えたトレイを颯爽と片した。足早に客席へ向かう。「ご注文は」ジョッキを片手に矢沢が怒涛の連弾を繰り出した。手慣…

夏の夕立

三船海岸沿いは今日も夕暮れだった。ひしゃげた鴎が宙を舞う。黒ずくめの海洋が高らかに鳴いている。その遠吠えを聞きつけたシド・ヴィシャスが浜辺に流れ着く。ニーチェが孤城に顔を埋める。小便を搔っ食らう神が髭を整える。鸚鵡返しのSiriが問いかける。…